『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』
世界一ダメなミュージシャン!?月収3万以下 職業、ヒモ 観客は大抵3、4人 ほぼ札幌のみで活動するミュージシャンKAZUYA。 札幌内で絶大な人気を誇ったバンドPHOOLの元ボーカル。ほぼ札幌だけで活動する51歳のミュージシャンKAZUYAに密着。KAZUYAの生き様を通して見えてくる好きなことで生きていくことの辛さ
『KAZUYA 世界一売れないミュージシャン』を見ました。ながら観でOKな佳作でした。
KAZUYAというクズ
月収三万円で暮らせるわけもなく、女の家に居候してヒモのような生活を続けるKAZUYA。世間一般から見たら紛れもないクズです。50代を過ぎた今も昔のバンドPHOOLの曲や、オリジナル曲を札幌市内のライブハウスなどを巡って歌っている。
正直、儲かる訳ありません。それで暮らしていけるわけありません。それでも就職しないのか?という問いにこう答えます。
『面接とか怖いしなあ。緊張すんじゃん、そういうの。』
すごいです。50代になった今も子供の心を忘れていません。就職する前の段階の面接とか、怖い。そりゃ誰だってそうでしょう。しかしKAZUYAの場合、歌を歌ってきたことぐらいしか実績と呼べるものがなく、面接官にどんな質問をされるのか、そういったことを考えるだけでも胃が痛くなってくるのかもしれません。
ドキュメンタリーの構成は、KAZUYAという50代のクズのライブハウス廻りの様子に、PHOOLの元ギタリストやベーシストなどのKAZUYAの周辺人物へのインタビューを挿入していく形です。
しかし、不満点が一つ。KAZUYAの生活を支えてくれているはずの女性からのインタビューがありません。このへんのことをもっと掘り下げてほしかった。
この作品自体、札幌にこういう人間がいるというKAZUYAという売れないミュージシャンを紹介したいという想いから出来上がっているような作品なので、KAZUYAに圧倒的に不利なことは排除したのかもしれません。ですが、ヒモ相手の女性へのインタビューはKAZUYAの生活や人生を描写する上で必須の相手だったはず。この女性が何を考えてこの男の暮らしを支えているのか。そういったことの掘り下げはどう考えても必要だったでしょう。
このKAZUYAという人間の暮らしぶりを見るにつけ、この男はどうやって生活しているんだ?という疑問が誰もが最初に浮かぶはずですので。
ドキュメンタリーというよりもプロモ作品に近い
この作品はKAZUYAという世界一売れないミュージシャンのドキュメンタリーを撮っているようで、実際はKAZUYAのプロモ映像のような作品になっています。
KAZUYAはいわゆる人たらしなのでしょう。自分にはどこにそこまで魅力があるのかはわかりませんでしたが、なにか人をひきつけてやまない魅力があり、その魅力故に今作を作る運びになっているように感じました。
KAZUYA周辺人物たちがインタビュー内で誰一人KAZUYAを批判しないのも人たらしの所以でしょう。
ですので、KAZUYAを売り出したいという思いも強く反映された映画になっています。PHOOLの曲やKAZUYA自身の曲などもほとんどフルで映画内で流されますし。
プロモーション作品に近い今作ですが、全体的にのんびりした作りになっていて、ながら観で十分な内容です。映画も途中から撮ることがなくなって、新作アルバムを作ろうという企画が突如立ち上がり、映画の後半は新作アルバムを作るという内容に完全にチェンジしており、になります。
発売されてからも、普通にレコ発ライブやプロモーションで道内を巡る様子を撮っているだけで非常に飽きます。
なによりPHOOLの曲もKAZUYAの曲もパッとしません。いいと思えません。普通です。まあまあなんです。
そこが一番の問題だと思います。この映画を見て、曲を聞いた人たちが、「なぜこの人が売れないのだろう?」と疑問に思うようなくらいいい曲が混じっていたりとか、こんなにもいい曲を歌う売れないミュージシャンがいるんだという感情に観客を持っていけたら、プロモーション作品としては大成功のはずです。
この作品がそうならないのは、1から100までこれが原因です。曲がぱっとしねえ。
ですが、KAZUYAの曲もPHOOLの曲も、正直に言って、「これは売れないだろうなあ」と素人目で見ても分かるくらいまあまあなんです。
死ぬほどキャッチーでもなければ、泣ける美メロなわけでもなく、耳に残るほど上手い歌声でもないし、声が特徴的なわけでもない。
すべてアベレージ。これが問題です。こんなどこにでもいそうな売れないミュージシャンを特集してドキュメンタリーにするのはKAZUYAという人間が映画になる。どうにも人たらしな人間であるのは事実のようです。
見るのならながら観で十分な作品です。作品のテンポも遅いですし、なにより作品は退屈です。見るのならば、KAZUYAについてこの人のどこが人を引きつけるのかを観察しながら見るのが飽きずに見られる鑑賞方法かと思います。
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